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補償と賠償|GCPレター第8号

■この記事は、2015年1月に発行されたGCPレターを転記したものです。

■関連資料
GCPレター第8号(2015年1月発行)補償と賠償

■GCPレターとは:
臨床試験全体の質の向上とGCPの啓発活動の一環として、当社提携医療機関向けのGCP関連などのレターを2021年3月まで発行いたしました。

  GCPレター|シミックヘルスケア・インスティテュート(CHI) 臨床試験全体の質の向上とGCPの啓発活動の一環として、当社提携医療機関向けのGCP関連などのレターを2021年3月まで発行いたしました。 シミックヘルスケア・インスティテュート株式会社(CHI)

今回のテーマは、【補償と賠償】です。

世界医師会フォルタレザ総会(2013年10月)でのヘルシンキ宣言の改訂において、被験者に対する適切な補償と治療が追加されたことについては『GCPレター 第2号』でお伝えしました。

■関連資料
GCPレター第2号(2014年5月発行)ヘルシンキ宣言とGCP

また、『臨床研究に関する倫理指針』(2009年4月改正)においても、被験者の健康被害の補償が義務付けられ、補償措置を求める研究の範囲と求める補償措置が明確にされています。

この記事では、「治験に係る健康被害に対する補償と賠償」について詳しく解説します。


目次[非表示]

  1. 1.ヘルシンキ宣言における補償
  2. 2.補償責任と賠償責任
  3. 3.GCPにおける補償
  4. 4.被験者の健康被害補償に関するガイドライン

ヘルシンキ宣言における補償

ヘルシンキ宣言は被験者に発生した健康被害に対する補償問題について、1964年の制定以降長い間沈黙を守ってきましたが、2008年のソウル総会での改訂で「研究計画書の中に被験者の治療と補償に関する情報を含むべきである」と初めて言及されました。

その後、2013年のフォルタレザ総会での改訂で「被験者に対する適切な補償と治療」について明確にされました。

ヘルシンキ宣言 15項(日本医師会訳)
研究参加の結果として損害を受けた被験者に対する適切な補償と治療が保証されなければならない

今回は、「治験に係る健康被害に対する補償と賠償」について考えてみます。

補償責任と賠償責任

一般的に「補償責任」と「賠償責任」の違いは次のとおりです。

  • 補償責任・・・違法性を前提としない責任
    →法律に抵触しなくても発生する社会的責任
    「違法行為(過失・故意)」や「債務不履行」によるものでなくても、他人に発生した損害を社会的救済として立法措置により救済するもの
  • 賠償責任・・・違法性を前提とした責任
    →法律に抵触したことにより発生する法的責任
    「違法行為(過失・故意)」や「債務不履行」により他人に損害を与えた場合、生じた損害を補填するもの

一方、治験で補償責任が発生する代表例は「治験使用薬の副作用による健康被害」が発生した場合です。

たとえば、被験者が初めて治験使用薬を服用した数時間後から「激しい嘔吐、下痢」が発生したケースで、治験責任医師及び治験依頼者が治験との因果関係を否定できないと判断し、副作用と認めた場合等が該当します。

同様に、治験で賠償責任を求められる例としては以下に示すような事例が考えられます。


しかしこの場合、被害者側に損害賠償請求の主張・立証責任があり(補償責任の場合は、因果関係の立証責任は治験依頼者にあります)、医療機関や治験依頼者等が自主的に賠償する場合以外は裁判によって賠償責任を確定しなければならず、被験者にとっては以下のような困難がともないます。

  • 裁判等に時間や費用がかかる。
  • 因果関係の立証が非常に難しい。
  • 健康被害発生当時の知識・技術水準からは、被害が予測できない場合には、企業には法的責任を問えない。
  • 未知の副作用については、治験依頼者に対して法的責任を問えない。 等

GCPにおける補償

GCP省令 第1条 ガイダンス2(14)では、治験に関連して被験者に健康被害が生じた場合に被験者の損失を適切に補償することが定められております。すなわち、治験と被験者の健康被害との間に因果関係が否定された場合には、賠償や補償の対象とはなりません。

GCP省令 第14条
治験の依頼をしようとする者は、あらかじめ、治験に係る被験者に生じた健康被害(受託者の業務により生じたものを含む。)の補償のために、保険の締結その他の必要な措置を講じておかなければならない。

GCP省令 第1条 ガイダンス2(14)
治験に関連して被験者に健康被害が生じた場合には、過失によるものであるか否かを問わず、被験者の損失を適切に補償すること。その際、因果関係の証明等について被験者に負担を課すことがないようにすること。

因果関係の判定にはGCP省令 第2条 ガイダンス15(10)を参考にすることができます。

GCP省令 第2条 ガイダンス18(10)
治験使用薬との因果関係の有無を判定する際には、以下を参考にすることができる。
① 投与中止後の消失
② 投与再開後の再発
③ 既に当該被験薬又は類薬において因果関係が確立
④ 交絡するリスク因子がない
⑤ 曝露量・曝露期間との整合性がある
⑥ 正確な既往歴の裏付けにより被験薬の関与がほぼ間違いなく説明可能
⑦ 併用治療が原因である合理的な可能性がみられない 等

被験者の健康被害補償に関するガイドライン

GCPでは「被験者の損失を適切に補償すること」と定めているだけで、具体的な補償の内容・方法、被害者に支給される金額等について一切定めていません。

そのため、治験に起因して被験者に健康被害が発生し、その健康被害に対してだれにも賠償責任を問うことができない場合(賠償責任が明らかでない場合も含みます)に治験依頼者が被験者を救済するためのガイドラインとして、医薬品企業法務研究会(以下、医法研)より「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」が1999年に公表され、その後何度も改正されています。

治験依頼者の多くは、医法研ガイドラインを参考として、各社の補償制度を定めています。

医法研ガイドラインでは、一般的な補償の内容(補償基準)として、「医療費」、「医療手当」、「補償金」を支払うことが定められています。

  • 医療費:治療に要した診療費及び薬剤費が支払われます。
  • 医療手当:入院を必要とするような健康被害にあっては、医薬品副作用被害救済制度の給付を参考に医療手当が支払われます。
  • 補償金:死亡または後遺障害が生じた場合には治験依頼者が定める補償制度に従い補償金が支払われます。

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