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ランダム化比較試験におけるデータ解析|GCPレター第45号

■この記事は、2018年9月28日に発行されたGCPレターを転記したものです。

■参考資料
GCPレター第45号(2018年9月28日発行)

■GCPレターとは:臨床試験全体の質の向上とGCPの啓発活動の一環として、当社提携医療機関向けのGCP関連などのレターを2021年3月まで発行いたしました。

  GCPレター|シミックヘルスケア・インスティテュート(CHI) 臨床試験全体の質の向上とGCPの啓発活動の一環として、当社提携医療機関向けのGCP関連などのレターを2021年3月まで発行いたしました。 シミックヘルスケア・インスティテュート株式会社(CHI)

医療機関から収集した治験データは、生物統計学に基づいて統計処理され、安全性や有効性を証明するデータとなります。収集した治験データは、正しく解析されなければなりません。治験データから得られる結果の偏りを最小にし、精度を最大にすることを目的に、「臨床試験のための統計的原則」(ICH-E9)が公表されています。

この記事では、ランダム化試験におけるデータ解析について、どのような症例を解析の対象とすべきか、ICH-E9の規定を確認しながら見ていきましょう。

目次[非表示]

  1. 1.ランダム化比較試験の場合、どのような症例を対象として解析すべきか?
  2. 2.ITTが推奨される理由
    1. 2.1.割付けどおりに解析(ITT解析)
    2. 2.2.治験実施計画を遵守した症例のみで解析(PPS解析)
    3. 2.3.割付けどおりに解析(ITT解析)
    4. 2.4.治験実施計画を遵守した症例のみで解析(PPS解析)
  3. 3.治験実施計画への記載
    1. 3.1.①主たる解析対象集団
    2. 3.2.②主たる解析対象集団から除外すべき症例
    3. 3.3.③上記②の除外に関する考察
  4. 4.まとめ

ランダム化比較試験の場合、どのような症例を対象として解析すべきか?

ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)の解析を行う場合には、Intention to Treat(ITT)解析を用いることが基本であるとICH-E9において提言されています。このITT解析とは、「ランダム化された全症例について、割付けどおりに解析する」ことであり、間違った治験薬を投与された症例や、1回も治験薬を飲んでいない症例、あるいは、間違って登録されてしまった症例も含めて解析を行います。

このような症例を解析の対象とすることには、統計学的に正しいのかもしれませんが、医学的に正しく解釈できているのか、不安になりますね。そこで、ICH-E9を確認してみると、「”除くべき理由のある最低限の症例”を除外しても良い」と規定されています。

この除くべき理由のある最低限の症例を除外した集団を、「最大の解析対象集団:Full Analysis Set(FAS)」と言い、除外可能な症例の具体例として、ICH-E9では以下が示されています。

  • 主要な登録基準を満たしていない場合(適格基準違反)
  • 試験治療を一回も受けていない場合
  • ランダム化後のデータがない場合

さらに登録基準を満たしていない症例を除外できる基準について、ICH-E9では以下の通り規定されています。

  1. 登録基準はランダム化以前に評価されている
  2. 除外の対象となる適格基準違反の発見は完全に客観的になされる
  3. すべての症例が適格基準違反について同様の綿密さで調べられている
  4. 特定の登録基準違反が発見された場合、それに関するすべての違反が除外される

また、FASのうち、治験実施計画に適合した症例からなる集団を、「治験実施計画に適合した対象集団:Per Protocol Set(PPS)」と言い、ICH-E9では以下に適合する症例からなる集団と示されています。

  1. 事前に定められた最低限の試験治療規定を完了していること
  2. 主要変数の測定値が利用可能であること
  3. 登録基準違反などの重大な治験実施計画違反がないこと

ITTが推奨される理由

さて、RCTの解析には、基本的にITT解析を用いると述べましたが、なぜ、ITTが推奨されるのでしょうか。割付けどおりに解析(ITT解析)した場合と治験実施計画を遵守した症例のみで解析(PPS解析)した場合を比較してみましょう。

まずは、「被験薬に効果がない」場合について考えてみます。

割付けどおりに解析(ITT解析)

被験薬に効果がない場合には、それを飲んでも飲まなくても効果はありません。また、飲んでいた被験薬を途中で止めても、あるいは、途中から被験薬を飲んだとしても、どちらにしても結果的には効果はありません。

正しく「効果がない」といえます

治験実施計画を遵守した症例のみで解析(PPS解析)

割付けどおりに服薬できなかった場合には、多くの場合、「薬が効かなかった」「有害事象が起こった」という理由によるものなので、PPS解析を行った場合には、薬が効かなかったと判断される症例が除外されてしまいます。

薬の効果が実際より高くなる方向にバイアスが入ります(効かない薬が市販されるリスクが高くなる)

よって、「薬の候補に効果がない」場合には、ITTのみで正しく評価されます

次に、「被験薬に効果がある」場合について考えてみましょう。

割付けどおりに解析(ITT解析)

被験薬を飲んでいない症例、被験薬を途中で止めた症例(薬が効かなかった症例)も解析に含みます。

薬の効果が実際より低くなる方向にバイアスが入ります(効く薬が市販されないリスクが高くなる)

治験実施計画を遵守した症例のみで解析(PPS解析)

被験薬を計画通りに飲んでいる症例のみで解析します。

薬の効果が実際より高くなる方向にバイアスが入ります(効かない薬が市販されるリスクが高くなる)

よって、「被験薬に効果がある」場合には、どちらの解析でもバイアスが入ります

途中で何らかの理由で治験薬を飲まなくなったのであれば、ある意味、日常診療においても飲み続けることが困難な薬かもしれません。ITT解析によれば、その薬をずっと飲み続けることができるか、その薬が本当に有用であるかを確認できると考えられます。


治験実施計画への記載

ICH-E9において、解析対象集団の定義は治験実施計画に事前に明記されるべきです。事前明記する必要がある事項は以下の通りです。

①主たる解析対象集団

  • ITTか、FASか、PPSか

②主たる解析対象集団から除外すべき症例

  • 除外すべき不適格な患者を特定すべき基準
  • 試験治療を受けていない患者
  • 試験治療開始後のデータが全く得られない患者
  • PPSにおいては、最低限の試験治療の規定など

③上記②の除外に関する考察

  • 除外の妥当性
  • 除外により生じる可能性のあるバイアス

まとめ

生物統計学は難しいと思われがちです。しかし、収集した治験データがどのように解析されるのかを理解することは、正しいデータの収集を行うためには重要です。この記事では、解析対象集団についてのみ説明しましたが、ICH-E9には、その他にデータの正確度と精度など、臨床試験の統計的原則が記載されていますので、一度確認してみてはいかがでしょうか。



シミックヘルスケア・インスティテュート株式会社(CHI) は、SMO(Site Management Organization:治験施設支援機関)として、全国4,000以上の医療機関と提携し、20年以上にわたり各医療機関を支援してまいりました。

これまでの知見・経験を活かし、治験・臨床研究の実施から事務的業務、IRB(治験審査委員会)事務局業務まで、医療機関における治験実施をフルサポートいたします。

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