臨床研究等保険とは?|GCPレター第60号
■この記事は、2020年3月31日に発行されたGCPレターを一部更新して転記したものです。
■参考資料
→GCPレター第60号(2020年3月31日発行)臨床研究等保険について
■GCPレターとは
臨床試験全体の質の向上とGCPの啓発活動の一環として、当社提携医療機関向けのGCP関連などのレターを2021年3月まで発行いたしました。
2018年4月に施行された臨床研究法では、『原則として適切な保険に加入する』旨が規定されました。今回は、臨床研究等保険について、法令や指針ではどのように規定されているのかを見てゆきましょう。
目次[非表示]
臨床研究と適用法令等および対応保険との関係
臨床研究の実施に関して、その適用法令および対応保険との関係をまとめると、下図のとおりになります。
今回は、上記3つの保険(治験・医師主導治験保険、再生医療等研究保険、臨床研究等保険)のうち、臨床研究等保険について説明します。
臨床研究等保険
根拠となる「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」と「臨床研究法」では、以下のとおり規定されています。
人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(以下、医学系倫理指針)における補償
第6 研究計画書に関する手続き
1 研究計画書の作成・変更
(7)研究責任者は、侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う研究であって通常の診療を超える医療行為を伴うものを実施しようとする場合には、当該研究に関連して研究対象者に生じた健康被害に対する補償を行うために、あらかじめ、保険への加入その他の必要な措置を適切に講じなければならない。
医学系倫理指針では、軽微な侵襲を超える侵襲+通常の診療を超えた医療行為を伴う研究について、補償措置が必要となります。
軽微な侵襲の例
- 一般健康診断で行われる採血や胸部単純X線撮影等と同程度のもの。
- 研究目的で、診療で行われる穿刺、切開、採血等の量を増やすが、追加的に生じる傷害や負担が相対的にわずかである場合。
- 造影剤を用いないMRI 撮像で長時間に及ぶ行動の制約等のない場合。
- 質問票による調査で、研究対象者に精神的苦痛等が生じる内容を含むことをあらかじめ明示して、研究対象者が匿名で回答又は回答を拒否することができる場合。
通常の診療を超える医療行為の例
- 医薬品医療機器等法に基づく承認等を受けていない医薬品(体外診断用医薬品を含む)又は医療機器(未承認医薬品・医療機器)の使用。
- 既承認医薬品・医療機器の承認等の範囲(効能・効果、用法・用量等)を超える使用。
- その他新規の医療技術による医療行為。
医学系倫理指針ガイダンス
第6 ガイダンス13
(7)の規定に関して、研究対象者に健康被害が生じた場合の補償措置については、必ずしも保険への加入に基づく金銭の支払に限られるものではない。重篤な副作用が高頻度で発生することが予測される薬剤等、補償保険の概念に必ずしも馴染まず、補償保険商品の設定がない場合には、研究で使用される薬剤の特性に応じて、補償保険に限らず医療の提供等の手段を講ずることにより実質的に補完できると考えられる。
臨床研究法施行前に各保険会社から提供されていた補償保険は、死亡・重篤な後遺障害を伴う健康被害を補償する「補償金」についてのみ補償されるものでした。このため、重篤な有害事象(治療関連死を含む)が一定頻度で生じる抗がん剤を用いる臨床研究は、支払いリスクが高く、掛け金も高額になり過ぎるため、適用される補償保険がありませんでした。
→これまでは、抗がん剤を用いる臨床研究では、生じた健康被害に対する医療を提供することにより、補償していると見なされてきました※。
※ ただし、この場合は、医療費あるいは医療手当の支給も困難である理由について、倫理審査委員会で審査を受けた上で、被験者にインフォームド・コンセントを得ることが必要です。
臨床研究法における補償
臨床研究法では、課長通知において、『原則として適切な保険に加入する』と規定されました。また、Q&Aにおいて、『第一の選択として補償金型の保険に、第二の選択として医療費・医療手当型の保険に加入することが望ましい』と記載されていますので、今後は、抗がん剤を用いる臨床研究においても、保険の加入について検討することが求められます。
臨床研究法施行規則
(臨床研究の対象者に対する補償)
第二十条
研究責任医師は、臨床研究を実施するに当たっては、あらかじめ、当該臨床研究の実施に伴い生じた健康被害の補償及び医療の提供のために、保険への加入、医療を提供する体制の確保その他の必要な措置を講じておかなければならない。
課長通知(平成30年2月28日医政経発0228第1号厚生労働省医政局経済課長/医政研発0228第1号同研究開発振興課長通知)
2. 法第2章関係(20)規則第20条関係
- 研究責任医師は、臨床研究を実施するに当たっては、あらかじめ、当該臨床研究の実施に伴い生じた健康被害の補償のために、原則として適切な保険に加入すること。また、保険に加入した場合であっても、当該臨床研究の実施に伴い生じた健康被害に対する医療の提供については、適切な措置を講じること。
- 研究責任医師は、当該臨床研究の実施に伴い生じた健康被害に対する医療の提供のみを行い、補償を行わない場合には、実施計画、研究計画書及び説明同意文書にその旨記載し、その理由について認定臨床研究審査委員会の承認を得なければならないこと。
- 特定臨床研究以外の臨床研究においても、原則保険の加入に努めること。
Q&A(統合版)(令和元年11月13日厚生労働省医政局研究開発振興課/医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課事務連絡)
問3-13 臨床研究の対象者に対する補償として加入する保険は、どのような補償内容のものが適当か。
(答)第一の選択として補償金型の保険に、第二の選択として医療費・医療手当型の保険に加入することが望ましい。なお、保険における、補償金、医療費・医療手当の考え方については、医薬品企業法務研究会の「被験者の健康被害補償に関するガイドライン」を参考の一つとされたい。
臨床研究法施行の時期にあわせて各保険会社で臨床研究等保険の改定が行われました。
改定内容としては、「補償金」の補償範囲・金額の拡大、「医療費」・「医療手当」の新設等があげられます。しかし、すべての健康被害に対応できるものではなく、補償範囲や金額は保険会社によって異なります。詳細は、各保険会社の保険約款等を確認してください。
臨床研究等保険と医師賠償責任保険
研究対象者に発生した健康被害が、医療行為に起因し、医師や医療機関が法律上の賠償責任を負担する場合の保険として「医師賠償責任保険」があります。
医師賠償責任保険は、臨床研究等中に行われた医療行為も対象となるため、臨床研究等保険(賠償責任条項)では、「医療行為に起因する法律上の賠償責任」を免責とし、医師賠償責任保険と補償が重複しないようにしていることが多く、その場合、臨床研究等に携わる医師、医療機関は、「臨床研究等保険」だけでなく、「医師賠償責任保険」にも加入することが必要です。
医学系倫理指針や臨床研究法で求めているのは、『補償責任条項』の部分です。ただし、臨床研究等保険は、補償責任と賠償責任があわさった保険で、補償責任単独の保険はありません。詳細については、各保険会社の保険約款等をご確認ください。
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